蒼夏の螺旋

   色んな日らしいけど知ったことか
 


今日11月11日は、日本では某有名菓子の日として定着しており、
記念日マニアだったなら、
他にも鮭の日とか電池の日とか様々な記念日とされていることを挙げられよう。
ただでさえ、11月と来れば
“いい○○の日”という語呂合わせが洩れなく付いて回るうえ、
1が4つも並ぶ綺麗なゾロ目と来たもので。

 “確かにポッキーは俺も大好きだけどもな。”

それが証拠にか、
今も体温計のように口許へ咥えてフライパンを揺すっており。
両手がフライパンの取っ手とフライ返しで塞がっていても、
何の支障もありませんとそれは軽快にポリポリポリと
器用にも口許だけで齧っていって。
短くなった最後の端っこは、
顔を天井へ向けると口を大きく開けて落とし込む格好でぱくんと一口。
それだけでもパフォーマンスとして成り立ちそうなくらいにリズミカルだし見事だし、
何より心から楽しそうなのが伺えて、
見ている人があったなら微笑ましいなとウキウキしたろう所作動作であり。

 「よっし、これは此処までで置いといて。」

主菜は奮発していいお肉でローストビーフを作ったし、
白見魚のフライへ掛ける餡かけも万全。
酒の肴ばっかじゃなく、ちゃんと総菜も食べてくれるので、
小松菜の胡麻和えとグリーンアスパラのベーコン巻き、
あと、オニオンフライに分葱とイカの酢味噌和えも作る予定。
盛り付けを待つそれらを見回し、へへ―♪とついつい口許がほころぶ。
ケーキは近所の洋菓子店に予約していて、
自分で作ってみようと思わないのは、そっちはほぼ自分の胃袋へ納まる代物だから。
同居中の誰かさんと再会するまでは、
自分がこんなまで料理を手掛けるなんて思いもしなかったし、
不器用な身では食材が無駄になるだけだなんて思ってもいたのにね。

 『美味いか? そうか、そりゃあよかった。
  ンン? ああ俺はいいから、もっと腹いっぱい食え。』

かつて自分の傍にいてくれたとある青年は、
そりゃあ料理が上手で。でも、
それを振る舞うことは滅多になかったよと話してくれた。
とある事情から一つ所に定住できず、
いっしょにあちこち旅をする身となっており。
それでも外食は移動中などでそうするしかない時だけ。
借りた家や、時にはホテルであっても
簡易のコンロを持ち込んでまでして、器用にいろいろと作ってくれた。
美味い美味いと感動しまくり、
しまいには有名な店の同じメニューでも舌が満足しなかったほどで、
だってのに、自分と出会って、そこから共に行動するようになるまでは
滅多に鍋さえ振るわなかったそうで。
彼曰く、

 『だって意味ねぇじゃねぇか。』

自分のためだけになんて、ただただ労力の無駄で、
腹を膨れさせたいだけならそこいらで買えるファストフードでも構わない。
一応青物も意識して食ってれば問題なんてない。
だって食い物を作るってのは、

 『美味いなぁって笑ってくれる人がいる、
  そんなご褒美欲しさにやるこったからな。』

そんな言い方すると、
じゃあファストフード作ってる人はどうなんだってツッコミもあろうが、
俺には今の今、口の周りをソースまみれにして
そりゃあ満足そうに笑ってるお前が一番のご褒美だからなと。
ナプキンで口の傍を拭ってくれつつ、しょうがねぇなあと笑ったサンジの顔が忘れられない。
誰へでも言い諭せる通り一遍な言い訳みたいなもんかと思ったものの、
自分が初めて、上手に出汁巻き玉子を焼いたとき、
ゾロがおおおと目を見張り、ご飯をいつもより早くお替りしてくれて、
それが凄っごく嬉しかったことから、
嗚呼、あれってこのことかと実感出来てたし。

 “でもなあ、サンジは知ってたのかなぁ。”

ダイニングテーブルに放り出してた駄菓子を手に、
食いしん坊さんはちょっとだけ感慨に耽ってみる。
美味い料理を作ってもらった側は側で、
それを食えなくなったら大変なんだってこと、あの彼は知ってたのかなと。
満足そうな笑顔でほら食えもっと食えと笑ってくれる人がいなくなるのって、
そりゃあもうもう味気ない毎日になっちゃうってこと。
舌が肥えてるからどうのって次元の話じゃあなくて、
一緒にいてくれて美味いか?って訊いてくれる人もまた、格別のご馳走なんだぞと、
あの凄腕シェフ殿は果たしてちゃんと知っていたのだろうか。

  Trrrrrrrr、Trrrrrrr

ぼんやりと物思いに耽っておれば、
やはりテーブルに出していたスマホが鳴って、
おおうと手にして頬へ当てれば、
いつものカッコいいお声が“すぐ帰るぞ”といつもの一言。
おお、待ってるぞと返してエプロンの紐を解き、
財布片手にケーキを受け取りにと出かけるルフィさんで。

 ご馳走も用意したし、
 プレゼントだって買ってあるし、
 お帰りと一緒に言うお祝いのセリフも考えた。
 風呂にするか?飯が良いか?
 それともゾロをくれるか?と、最後はフェイント掛けてやるんだvv
 逆だろ普通とツッコミ入れるの込み込みでvv
 待ち遠しいなとハミングしながら、軽快な足音が去り、
 それへかぶさって ばったんと重いドアが閉じられた。


  
HAPPY BIRTHDAY!  TO ZORO!





  〜Fine〜  17.11.11.


 *う〜ん、誰の誕生日おめでとう話か微妙な出来になっちゃいましたね。
  新婚さんシリーズじゃなかったんだよという始まりを
  たまには思い出してみたくなりました。
  勿論、今は実家のお母様も幸せで、
  ベルちゃんにフリフリだらけの服を買いあさったり、
  ルフィさんへもどっかの美魔女なおばあさまみたいに高級食材山ほど送ったり、
  元気にはた迷惑かける立場へ移行中です。(おいおい)

*めるふぉvv ご感想はこちらvv

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